お便りシリーズNo.76


= 令和4年・2022年早稲田・教育学部古典(古文漢文)だより =



木山のホームページ    


《文脈が理解できない状態でも前後関係と

知識だけで5割の得点率が可能となる方策

はあるか?》実際に解かせてみた検証。



ー平安版『花王愛の劇場』・苦悩する姉妹ー


1969年から2009年までの、平日の13:00〜13:30にTBS系列で放送された昼メロ《主婦層向けのメロドラマ》に「花王愛の劇場」というのがありました。女性の不倫・浮気・道ならぬ恋をモチーフとした過激な愛憎劇が人気を呼び、いわゆる「よろめきドラマ」の系列をさらにドロドロにしたような「女の絶叫」的演出に引き込まれる主婦層も多かったと聞きます。
今回取り上げる「夜の寝覚め」は、いわば平安版『花王愛の劇場』といった趣きです。
少しあらすじを紹介しましょう。

時の関白左大臣の息子の権中納言(⇒後に大納言)は、太政大臣の長女大君(おおぎみ)との婚約が整っていましたが、乳母(めのと)の病を見舞った夜に、隣家から聞こえてくる琴の音色にひかれて、大君の妹、中の君を垣間見てしまいます。
中の君の「望月のさやかなる光」を見るような美しさに心奪われた中納言は、婚約者の妹とは知らずに中の君と一夜の契りを結んでしまい、中の君は懐妊します。
その後、中納言は姉の大君と結婚しますが、中の君との一夜を忘れられません。中の君も、あの夜の相手が姉の大君の夫であることを知り驚愕します。
中の君は病気平癒祈願にことよせて石山寺に隠れ、密かに輝くばかりの女子を出産します。中の君思慕に堪えかねた大納言(以前の中納言)が石山に忍び、生死の境にある中の君と再会する感動的な場面もありました。
石山の姫君は密かに大納言の手に引き取られ、初孫を喜ぶ父(大納言の父)関白邸で愛育されます。夫の大納言が子を迎えたという噂はたちまち北の方(姉の大君)の耳にも入り、大君は他の女性の存在を知り不信に苦しみます。《←この場面が今回の早稲田教育学部の本文となっています》しかし、やがてさらに恐ろしい事実、その子の母が自分の妹の中の君であることを悟らねばなりませんでした。
病癒えて本邸(太政大臣邸)にあった中の君は、姉夫婦の危機と周囲の我が身への憎悪を一つ家の中で受け止めることとなります。
大納言はこれ程までの危機にも、中君への想いがやまず、人目を避けて同じ邸に住まう中の君に便りを届けさせたりしますが、姉への呵責の念に苦しむ中の君は決して返事をしません。しかし、中の君の心には、大納言に対して新たな男女の深い情愛も芽生え始めてきます。
かくて、あやにくなる縁(えにし)はもつれにもつれ、事態はいよいよ深刻になりまさりつつ、さて、その後の三人の運命やいかに・・・
といった内容が巻一・巻二のあらすじです。


私が今回「文脈が分からない状態でどの程度問題が解けるのか?」と問題を提起したのは、上記のような背景が充分に伝えられない状況で早稲田の問題が作られているように感じるからです。



大納言と中の君の間に生まれた女子(姫君)が大納言の父関白邸で愛育されていること。

夫の大納言が子を迎えた事実を知り、妻の大君は不信に苦しみ、それに対して大納言が弁明するいきさつ。

この問題文の時点で、中の君は大納言夫婦と同じ邸に住んでおり、大納言は同じ邸内の中の君に文を送っているということなど。


こうした背景説明が、リード文や補註によってある程度補われなければ、設問自体は解けたとしても、正攻法の読解は無理なのではないか、と私は感じてしまいます。
例えば、傍線3の直後の『〜ときこえても、あなたうち見やられて、』の「あなた=あちら=中の君の部屋の方に自然に目がいって」などは、大納言夫婦の部屋から中の君の部屋が間近に見えている、つまり同じ邸内に住んでいることが前提とならなければ、論理的には出てこない訳出ですし、「かの石山にて、あるかなきかなりし火影(ほかげ)に、いとよく似たりかし」という大納言の独白も、石山での中の君との再会が前提となった表現ですが、補註などの説明がありません。

一般に早稲田の古文問題の背景説明は充分に尽くされていないことが多く、状況設定がよく分からないまま、いきなり原文を読まされる感があります。
作問者自身には研究対象としてすでに自明の作品背景であっても、受験生の立場に立てば多くは作品背景を知らない、いわば原初状態ですから、彼らの手持ちの知識だけで文脈の把握につながるかどうか、作問者は常に心を配る必要があります。つまり、本気で文脈を読ませようとするならば、それに見合うだけの説明・補註を付けるのが常道ですが、その点で早稲田の作問は極めて不充分と言えます。
しかし、そうした傾向が早稲田の問題の伝統のようになっている現状もあり、受験生としては《文脈が理解できない状態でも、前後関係や知識だけで何とか設問自体には答えられる方策》を探っていくしかないわけです。

そこで、本文の内容が読み取れない状態で、どの程度得点出来るのか、実際の受験生を使って確かめてみることにしました。被験者は早稲田教育学部志望の既卒生(男子Aさん)であり、2022年4月から2023年1月まで一回100分の私のオンライン個人指導を40回受講された方です。現役時は理系志望であったため、古文の知識はほぼこの40回の授業を通して初めて得たということでした。
木山方式の暗記には熱心に取り組んでくれた学生さんであり、この調査の時点では、すでに古文単語・文法・和歌修辞・文学史などの暗記は充分に達成されていました。調査は2022年1月24日の授業時に、古文漢文合わせて30分の制限時間で実施しました。演習後の感想では、こちらの予想通り “ 文脈内容についてはかなり分からなかった " とのこと。ちなみに、この男子学生さんは2023年度の早稲田教育学部入試において合格されています。

以下の問題解説によって、前後関係と知識だけで解けるのではないか?と、私が考えた設問について被験者のAさんが正答を得ているかどうかを検証していきます。






[三] 次の文章は、『夜の寝覚』の一場面である。男主人公の大納言と、彼の妻であり、女主人公の寝覚の君(中君)の姉である「かの御方」(大君)との夫婦の会話から始まっている。これを読んで、あとの問いに答えよ。

    大殿[注…大納言の父関白邸]には、ことごとなく、この御かしづきを

明け暮れしたまふ。御五十日の日を数へて、世の営み、響きを、かの御方には

聞きたまひて、「かかる人出で来る所もありけるを、知らざりけるよ」と、

いとなべて世の中恨めしく、【 A 】おぼしたるを見aたまひて、大納言は、

「ひとりはべりしほど、ときどきうち忍びつつ通ひし所に、かかることのあり

けるも、しらざりけるほどに、殿に、聞きたまひて、迎え取りたまへりける

にぞ、見はべる。にくからぬさまのしたれば、いかでか、ひとりも思ひ捨て

はべらむ。さるべからむついでに、いかでか見せbたてまつらむ。同じ御心に

おぼせよ」と申したまへど、うち赤みて、年ごろも、

おぼしのどめたる上べばかりをさりげなくて、世には、もの嘆かしげに、

静心なげなる御気色とは見つれど、


1  さしてそのこととなきには、おのずから深くも咎(とが)められたまはぬに、

姫君迎へられたまひて後、身の宿世つらくおぼし知られて、やすげなき御気色

を、「 2  わりなしや。生まれたるほどをおぼせ。我が後(のち)かと。

たとひさるにても、男はさのみこそはべれ。されど、あやしく実法にて、

埋もれ木などやうになりはべりにし身なれば、


3 人の心を折りて、おぼし咎(とが)むばかりの振舞は、よもしはべらじ

ときこえても、あなたうち見やられて、まづものぞあはれなる。

    かくのみやすげなく、おぼし恨みたる気色なれど、「などかく

おぼすべき。あまたかかづらひ通ふは、世のつねの男の性(さが)、

4 なほなほしき際こそ、かかる筋をかく思ふなれ。ふさはしからず」

などおぼせば、姫君はた、一日の隔て、昼間のほども恋しくおぼつか

なければ、大殿がちにのみなりたまひつつ、枝さしめぐるほどに

通ひたまへるを、

5 尋ねうかがはせたまへど

げに、「そこに、その人をおぼす」とも聞かねば、いみじく嘆かしく、

弁の乳母[注…大君の乳母]の、心焦(い)られ鎮(しづ)めもあへず思ひ言う

を、こなたには、聞くにも、いとどわづらはしきままに、御返りなども、

いとど絶えてなし。おぼつかなく、

6 いぶせくて過ぎゆく慰めには、姫君を、ただ空けくれ飽き見たてまつらせ

たまふ。

宰相の君[注…姫君の乳母]といふ人の、乳あゆる、御乳母に召したり。

御五十日、百日など過ぎて、この君、目もあやに、日に添へて光を添へ

おはするさま、あまりゆゆしきを、いとあはれと見つつ、

鼠鳴きしかけたまへば、物語をいと高くしかけて、高々とうち笑ひうち笑ひし

たまふにほひ、「かの石山にて、あるかなきかなりし火影(ほかげ)に、

いとよく似たりかし」と、まもりたまふに、いと悲しければ、見あまりたまひ

て、うつるばかり赤き紙に、撫子を折りて包みて、

7 よそへつつあはれとも見よ見るままににほひにまさるなでしこの花

ただ今御覧ぜさせばや」などばかり、例のやうに言葉がちにもあらず、優に

書きたまへるを、これにも、御前の壺なる、童べ下ろして、

草ひきつくろはせて見cたまふほどなりければ、例ならず目とどめられたまふ

に、対の君[注…大君、中君の従姉妹で中君の世話役]なども、

「いとあはれに思ひやらるる御程 8 なるを、このたびは」と、そそのかしき

こゆれど、「いかでか」と、【 B 】、きこえたまはず。

『夜の寝覚』





*本来であれば、ここで[現代語訳]を載せるのですが、

今回は全体の文脈が見えない状態で、(設問箇所の前後関係のみで)

正答を導けるか、という思考実験ですから割愛します。




 



問十八 空欄【 A 】と空欄【 B 】に入る語の組み合わせとして、最も適切なものを一つ選べ。

イ はかなげに うつくしげにて
ロ あはれげに ゆかしげにて
ハ ものしげに つつましげにて
ニ なめげに  いとほしげにて
ホ にくげに  たのもしげにて

*決め手は空欄【 B 】の方です。前後だけ読めば『(誰かが)そそのかし申し上げるけれど、本人は「どうしてそんなことが出来ましょうか」と、【 B 】な様子で、手紙を差し上げなさらない』と解釈できます。「いかでか」⇒公式32③反語/「きこゆ」⇒公式57②手紙を差し上げる。「〜げに」⇒公式45⑤形容動詞の語尾〜な様子だ。
Bの選択肢に「つつましげにて」とあり、意味は " 遠慮する・気をくれする " (直単B動42)ですから、それを【 B 】に入れれば、気おくれして手紙をお出しにならないという意味で前後が上手く整合します。 すると、組み合わせ上【 A 】には「ものしげに」が入ることになりますが、「ものし」の意味は “ 不快だ ”(直単C形76)ですから、前後の訳は「たいそう世の中が恨めしく、不快な様子にお思いになっていたのを(誰かが)ご覧になって」となって、こちらも問題なく通じます。従って、答えはハです。Aさんもハで⇒正解。



問十九 傍線部acはそれぞれ誰に対する敬意をあらわしているか。最も適切なものを一つ選べ。なお重複するものを選択してもよい。

イ 大殿(関白)
ロ 大納言
ハ かの御方(大君)
ニ 姫君
ホ こなた(中君)

*全く文脈がわからないとしても、傍線部aだけは簡単に答えを導くことが出来ます。直前の文脈は『(誰かが)たいそう世の中が恨めしく、不快な様子にお思いになっていたのをご覧になって、大納言は(その人に)〜〜〜〜〜と申し上げなさるけれど』ですから、「見たまひて=ご覧になって」の主体は大納言であり、「たまひ」は尊敬の補助動詞ですから敬意の方向はそのまま大納言に対する敬意となります。公式59尊敬語は動作主への敬意。
bとcについては文脈に関わるので、前後関係のみでは解けません。
a→ロ
b→ハ
c→ホ
Aさんも⇒aで正解。《Aさんcも正解しています》


問二十《文脈問題なので省略します》


問二十一 傍線部さしてそのこととなきには、おのづから深くも咎められたまはぬに」の解釈として最も適切なものを一つ選べ。

イ 特にその原因がない以上は、自然に深くもとがめたりなさることはなかったが。

ロ 特別な事件は起こらなかったので、それ以上深く非難されてしまうことはなかったが。

ハ 誰とは思い当たらなかったので、自然にその人を厳しく非難したりなさらなかったが。

ニ 何か特に罪を犯したわけではなかったので、自身を深くも反省はなさらなかったが。

ホ 二人の間には何もなかった以上は、いつしか世間から深くもとがめられなかったが。

*解法の着眼点は、重要単語『おのづから』と『咎(とが)む』です。特に『咎(とが)む』は、直単B動43①気にかける・心にとめる ②(非難する)のうち、②の非難のニュアンスで問われることが王朝物語では極めて少ないことを常に強調していました。
つまり、『咎(とが)む』が出題された場合、" 非難する “ の意が引っかけの選択肢になることが多いということです。やや試験慣れのテクニックみたいなものですが、木山方式の直単暗記を10ヶ月続けた人なら自然にそういう対応をするのではないかと思います。ロの「非難されて」ハの「非難したり」はこの視点で排除されます。
残りのイ・二・ホに「気にかける/心にとめる」の訳出はありませんが、イの「深くもとがめたり」ホの「深くもとがめられ」の意味は、ロハの非難するという訳出とは区別されている以上、非難の意味ではなく、” 深くも気にかけたり心にとめることをしなかった ” の意で用いられてるいると判断できます。
『おのづから』C6副4①は「自然に」の意。ホの「いつしか」(現代語の意味はいつの間にか)とは異なります。二の「反省」は『咎(とが)む』の訳出としては論外ですから、消去法でイが正解ということになります。 以上の説明から、文脈がわからなくても充分手の届く設問であると私は思いますが、被験者のAさんはイとホで迷った末に、ホを選んで不正解となりました。


問二十二 傍線部わりなしや」傍線部いぶせくて」の現代語訳として、最も適切なものを一つずつ選べ。

Ⅰ 傍線部
イ こわいなあ
ロ 困るなあ
ハ 馬鹿だなあ
ニ 楽しいなあ
ホ つまらないなあ

*10ヶ月間、直単で暗記した『わりなし』の意味は「どうしようもない」です。(C形87①) 文脈がわからないとしても、詠嘆的に ” (ほんとに)どうしようもないなぁ “ と言っていることだけは分かります。ニュアンス的にはロ・ハ・ホあたりで迷いそうですが、ハの「馬鹿だなぁ」であれば他に『おこなり』(A名55*)という古語もあるので、仮にハであれば ” おこなりけり “ などとなりそうですし、ホの「つまらない」も他に『あぢきなし/よしなし』など別単語があるので、何となく躊躇してしまいます。
傍線部の直前は「やすげなき御気色を」とあり、誰かの「やすげなきご様子を(見て)」他の誰かが(そんなご様子を見せているのは)「(ほんとに)どうしようもないなぁ」と嘆息しているわけです。
「どうしようもなくて(困ったなぁ)」と取ればロになりますが、その「どうしようもないなぁ」に込められた気分としては ハの ”(そんな様子でいるなんて)馬鹿だなぁ “ という解釈も無きにしも非ずで迷ってしまいます。 結局、作問者は小学館日本古典文学全集『夜の寝覚』の上欄の補註、『以下、大納言の言葉。「わりなしや」は、そんなに沈みこまれては、私としてもどうしてよいかわからない、の意。北の方を慰めかねた嘆息。どうにも弱ってしまうなぁ。』を作問の根拠としたのではないでしょうか。
その『どうにも弱ってしまうなぁ。』の訳を見た上で、同趣旨の「困るなぁ」という選択肢を思い付いたのではないか、と推察します。
仮に、作問者自身が無知のヴェールをまとって、作品背景を全く知らない原初状態になったとしたら、彼自身も解答に迷うのかもしれません。つまり、私の目には、作問上、ロジカルな解法としては絞りきれない設問のように見えます。
2022年早稲田教育学部入試と言えば、第一問の『フーコーの風向き』を巡って著者の重田園江氏《明治大学教授・政治思想》が疑義をネット上に公開するも、早稲田側は全く応えようとしない態度が話題になりました。大学入試の作問上の不備は良くある現象です。これなどは比較的罪の軽い部類です。
もちろん、諸解答は全て例外なくイを正解としています。古典文学全集の訳を参考にすれば、イの正解は動かないでしょう。しかし、入試問題は ” 提示された限られた情報のみで、ロジカルに解法が導ける “ ことが作問の正当性の根拠となるべきで、原初状態では、やはりロ・ハ・ホで迷うのではないか、と私は思います。
Aさんはロで正解しています。やはり、ロ・ハ・ホで迷った末に、何となくロを選んだそうです。

Ⅱ 傍線部
イ 人恋しくて
ロ わけがわからず
ハ 夢中になって
ニ 心が晴れず
ホ いらいらしながら

*「いぶせし」(B形13①…憂鬱だ。) 。憂鬱の意味は ” うっとおしくて気持ちが晴れ晴れとしないこと “ ですから、二の「心が晴れず」が正解であることはすぐに分かります。 Aさんも二で正解。



問二十三《完全に文脈問題なので省略します》



問二十四 傍線部なおなおしき」の対義語として、最も適切なものを一つ選べ。

イ うるはしき
ロ なつかしき
ハ つきづきしき
ニ やむごとなき
ホ おどろおどろしき

*「なほなほし」という形容詞については、直単には載せていません。文脈が分からない状態での解法としては、「なほなほしき際」の『際(きは)』の意に着眼すべきです。A名18①「きは(際)…身分」つまり、「なほなほしき身分」の対義語として、「〜〜〜〜な身分」となるものを探すことになります。
イの「うるはし」は ” きちんとした端正な美しさ “(B形21)
ロの「なつかし」は ” 親しみやすい ”(C形57)
ハの「つきづきし」は “ 似つかわしい ”(C形52)
二の「やむごとなし」は “ 高貴だ・尊い ”(C形78)
ホの「おどろおどろし」は “ 大げさだ ”(B形24)
ですから、『身分』を修飾する語として違和感がないのは二の『やむごとなき』(=高貴なご身分)しかありません。
Aさんも二で正解。


問二十五 傍線部尋ねうかがわせたまへど」の解釈として最も適切なものを一つ選べ。

イ 夫が通う家を尋ねてうかがうことをなさったが。
ロ 姫君の様子を探って見させることをなさったが。
ハ 夫が愛してるいる女性を探させることをなさったが。
二 姫君がどこにいるのかを尋ねて探させることをなさったが。
ホ 心当たりの人を夫に尋ねて様子をうかがうことをなさったが。

*「尋ぬ」については直単以外の、公式改訂版に記載が有り、年間を通して、” 尋ねる・質問する “の意よりも“ 探し求める ”の意が狙われやすいことを強調しました。
尋ぬ・訪ぬ・訊ぬ…①探し求める・追求する②質問する③訪れる
例えば「母をたずねて三千里」といった場合、母に質問して尋ねるという意味ではなく、母を探し求めるという意味で用います。
この視点を持っていれば、イの「尋ねてうかがう」二の「尋ねて探させる」ホの「夫に尋ねて」は、文字通り「尋ねる(=質問する)」の意で用いているので排除できます。ロかハで絞ります。
あとは語感のレベルですが、古語の『うかがふ』は ” 様子を探る “ といった意味ですから、それ自体が「探し求める」の意と重なった意となり、ロの「〜見させることをなさった」という使役的解釈はどこからも出てきません。従って、ハが正解。 Aさんもハで正答しています。


問二十六 傍線部の和歌には掛詞があるが、どこにあるか、最も適切なものを一つ選べ。

イ 初句
ロ 第二句
ハ 第三句
ニ 第四句
ホ 末句

*直単D37『なでしこ(撫子)』…①植物の名 ②撫でるように可愛がっている子、の知識があれば解けます。
もともと花の名前である「なでしこ」が②の意にも取れるのは、「なでしこ」の「し」を過去の助動詞『き』の連体形と見て、” 撫でた子供 " と解釈できるからであり、そう考えれば「なでしこ」が子供の暗喩になるというわけではなく、文字通nadesikoの発音が「撫子」と「撫でし子」の両儀になっているのが分かります。従って掛詞と認定でき、答えはホとなります。Aさんもホで正解。


問二十七 傍線分なる」とは異なる「なる」はどれか、最も適切なものを一つ選べ。

イ 花さそふあらしの庭の雪ならでふりゆく物は我が身なりけり

ロ 筑波嶺の峰よりおつるみなの川恋ぞつもりてふちとなりぬる

ハ 吹く風の色のちくさに見えつるは秋の木の葉の散ればなりけり

ニ ももしきやふるき軒ばのしのぶにもなほあまりある昔なりけり

ホ 春の夜の夢ばかりなるたまくらにかひなくたたん名こそをしけれ

*傍線部8の「なる」が断定の助動詞であることは明白だと思います。『なり』の識別が判然としない人はこのホームページ上にも載せてる “ 『なり』の識別 ” をご覧下さい。古文公式を持っている人は公式45①②③④⑤が『なり』の識別です。
ロの「恋ぞつもりてふち(淵)となりぬる」の「なり」は、四段動詞『成る』の連用形です。イハニホは断定の助動詞。従って、ロが正解。
Aさんもロで正解。



問二十八 『夜の寝覚』と同じ頃に成立した物語はどれか、最も適切なものを一つ選べ。

イ 落窪物語
ロ うつほ物語
ハ 松浦宮物語
ニ 有明の別れ
ホ 浜松中納言物語

*『夜の寝覚』と『浜松中納言物語』と平安日記作品の『更級日記』は、全て1060年ごろの成立です。定家直筆の『更級日記』の奥書には “ 作者の菅原孝標(たかすえ)の女(むすめ)は、夜の寝覚、浜松中納言物語を同時に書いた人物と伝えられている " と書かれており、もしそれが事実なら、孝標の女は更級日記に書かれた平凡な主婦としての一生ではなく、実は物語作者として成功していたことになります。 紫式部や清少納言が活躍した西暦1000年前後の時代から、孝標の女はワン世代後の時代を生きました。であればこそ、地方まで伝播した紫式部の「源氏物語」の物語世界に憧れて少女時代に上総から上京して来るわけです。その文学少女の晩年期が60年後の1060年頃となり、女の一生を慨嘆して書いたのが『更級日記』です。それとそれ程遠くない時期に、『夜の寝覚』『浜松中納言物語』も成立したと考えると立体的な理解となります。
答はホ。もちろんAさんも正解。







木山のホームページ 漢文  


【四】次の文章は、北宋・蘇軾の「稼(か)の説(穀物の育て方について)」の一節である。これを読んで、後の問いに答えよ。

[書き下し文]

 盍 嘗 観 於 富 人 之 稼 乎。

其(そ)の田(た)美(び)にして多く、其の食足りて余り有り。その田美にして

多ければ、則ち

  以 更  休、而 地 力 得 全。

其の食足りて余り有れば、則ち之を種(う)うること常に時に後れず、

而(しか)して之を斂(おさ)むること常に其の熟するに及ぶ。故に富人の

稼(か)常に美にして、秕(しいな)[注…中身のつまっていない穀物]少なく

実多く、久しく蔵(ぞう)て腐らず。今吾(われ)十口(じゅっこ)の家にして、

百畝(ひゃっぽ)[注…古代より標準的とされた田畑の広さ]の田を共にす。

寸寸(すんすん)にして之を取り、

 日 夜 以 望 之

鋤耰銍艾(じょうゆうちつがい)[注…土を耕し種まきして土をならして鎌で

刈ること]
上(うえ)に相尋(つ)ぐこと魚鱗の如くして、

地力(ちりょく)竭(つ)く。之を種(う)うること常に時に及ばずして、之を

斂(おさ)むること常に其の熟するを待たず。此(こ)れ豈(あ)に能(よ)く復た

美稼(びか)有らんや。


 古 之 人、其 才 非 有 以 大 過 今 之 人 也。

    平居(へいきょ)[注…常日頃]自(みずか)ら養ひて敢えて軽(かろがろ)しく

用ひず以て其(そ)の成(な)るを待つ所以(ゆえん)の者は、

閔閔焉(びんびんえん)[注…心配し気をもむ様]として嬰児(えいじ)の長ずる

を望むがごとし。

    弱き者は之を養ひて【 A 】に至り、虚(きょ)なる者は之を養ひて

以て【 B 】に至る。

三十にして後(のち)仕え、五十にして終(のち)

爵(しゃく)す。[注…爵位を得ること]  

    久しく屈(くっ)するの中に信(の)[注…伸と同じ]びて、既に足(た)るの

後(のち)に用ひ、すでに溢(あふ)るるの余りに流れて、満(まん)を持(じ)する

の末に発(はっ)す。

此(こ)れ古(いにしへ)の人の大いに人に過ぐる所以(ゆえん)にして、

今の君子の及(およ)ばざる所以(ゆえん)なり。





*本来であれば、ここで[現代語訳]を載せるのですが、

今回は全体の文脈が見えない状態で、(設問箇所の前後関係のみで)

正答を導けるか、という思考実験ですから割愛します。



問二十九 棒線部盍嘗観於冨人之稼乎」の読み方として最も適切なものを選べ。

イ なんぞこころみにふじんのかをみんや。

ロ なんぞこころみにふじんのかをみざるや。

ハ なんすれぞこころみにふじんのかをみるや。

ニ けだしこころみにふじんのかをみるならんや。

ホ けだしこころみにふじんのかをみるべけんや。

*「盍」は公式7再読文字で『なんゾ〜ザル』(どうして〜しないのか/〜したらどうか)ですから、瞬時にイとロで絞れます。さらに「盍」の再読文字の末尾は「〜ザル」であり、意味的にも ” こころみに豊人の稼(穀物)を見てみたらどうか ” の意で違和感なく、ロが正解。
『なんすレゾ』は公式14C⑦「何為・何謂・奚為・胡為』の二文字の場合。『けだシ』は漢単B2にあるように草冠を付けた「蓋」の漢字。どちらも漢文チェックリストの一問一答で何回も暗記チェックを実施した項目でした。もちろんAさんもロで正解。


問三十 棒線部可以更休、而地力得全」とはどういう意味か。最も適切なものを一つ選べ。

イ かわるがわる休耕にすることが出来るので、とちも痩せ細らず完全な状態を保てる。

ロ 休耕と耕作を交互に行えるので、人も耕地も、それぞれ常に十全な状態でいられる。

ハ おまけに耕作を休むとことができるので、いつでも体力を温存して完璧な耕作ができる。

ニ たとえ休耕しても、土地の栄養分と労働力はその間に十分回復して完全な状態に戻れる。

ホ さらに十分な休みを取ることもできるので、本来の地力を完全に発揮できるようになる。

*直前の内容から、” 富人の田は立派で(=美)多いので “ ⇒則ち(だから)⇒『休むことができて、地力全(まった)きを得(う)』という文脈は最低限見えるはずです。漢単D14『全(まった)シ…完全な状態』
あとは、農地に関する常識にも依りますが、焼畑農業でも三圃式農業でも定期的に休耕地にすることで農地の地力(ちりょく)の低下を防ぐことは一般にも良く知られています。つまり、富人の田は多いので土地を休耕地にすることで地力を完全な状態に保つことが出来る、といった意味に解釈できます。
「地力」とは “ 土地が農作物を育てる力 ” ですから、人間の体力や労働力は関係なく、その点でロ・ハ・二は消去できます。ホは全体の文意から「地力」を「ちりょく」ではなく、「じりき…そのものに備わっている本来の力」の意で用いている点で落とせます。
答はイ。Aさんもイで正解。


問三十三 空欄【 A 】【 B 】にはそれぞれ漢字一字がはいる。A・Bの組み合わせとして最も適切なものを次の中から一つ選べ。

イ A 毅  B 亡
ロ A 空  B 滅
ハ A 強  B 迅
二 A 剛  B 充
ホ A 柔  B 実

*前後関係から解けます。空欄を含む前後の分脈は、『弱き者は之を養ひて以て【 A 】に至り、虚なる者は之を養ひて【 B 】に至る。』ですから、おそらく【 A 】に入るのは “ 弱き ” の対義語、【 B 】に入るのは ” 虚…中身がない・空っぽ " の対義語であろうと推測出来ます。
答は二です。「剛…強くてかたい」「充…中身がいっぱい」ハのBは「迅…進み方が速い」Aさんも二で正解です。



《結語》

古文漢文合わせて20設問中、実際に被験者のAさんが前後関係と知識から正解を得た設問は12問となり、得点率は60.0%前後関係と知識だけで6割の得点が可能という結果になりました。
(注)実際にはなんとか文脈で解こうとした設問もあり、Aさんの全ての設問の得点率は74.1%でした。




     もどる