古文公式42
「に」 の識別の解説
古文公式の42「に」の識別を横に見ながら読んで下さい。
一番めは、公式42@の断定の助動詞「なり」の連用形の「に」です。
(公7の下の方に断定「なり」の活用表を載せています。)
まず、断定の助動詞の場合、「に」の下に「あり」の系列の動詞がくることが基本です。たとえば、存在を表す「あり」や、「あり」の丁寧語の「侍(はべ)り」「候(さぶら)ふ」、「あり」の尊敬語の「おはす」などが「に」の下にきて「〜デアル」とか「〜デゴザイマス」とか「〜デイラッシャル」と読むことができるというのが基本です。
【例】
「おのが身はこの国の人
にもあらず
。」
この場合、「に」+「も」(係助詞)+「あら」≠フ形ですから、「我が身はこの国の人
でもない
」と訳せて、「に」は断定の助動詞「なり」の連用形です。
こんなふうに、「に」と「あり」の間に係助詞が入ることもありますが、基本的に、
こんな形になって、訳の上でも「〜デアル」のように訳せる場合、「に」は断定の助動詞「なり」の連用形
です。また、文末で断定「なり」の連用形の「に」に係助詞の「や/か/こそ」がついて、「
〜にや。/〜にか。/〜にこそ。
」で文が終止した場合は、下に「あらむ」や「あらめ」が省略されていると考えて、やはりその場合の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形と考えます。
公7の下の?マークに『に』+(係助詞)+あり→断定「なり」の連用形と書いてあるのがそれです。
以上、まとめると、〜『に』+あり系で「〜デアル」と訳せる場合、また文末が「〜にや。〜にか。〜にこそ。」となっている時の「に」は断定の助動詞「なり」の連用形といえます。
公42のAを見て下さい。
二番めは、完了の助動詞「ぬ」の連用形の「に」です。
(「ぬ」の活用は公5に載せています。)
さて、完了の助動詞「ぬ」の連用形の場合には、「に」の下に過去系助動詞がきて、
この形には実際には「
〜にき/〜にけり/〜にけむ/〜にたり
」の4パターンしかありません
から、この四つの形を覚えてしまえば終わりです。
【例】
「今は忘れ
にけり
。」
これを訳せば「今は忘れてしまった」であり、これは本来「今は忘れ
ぬ
」という文があって、そこに下から連用形接続の過去の助動詞「
けり
」がくっついてきて、「〜
にけり
」という形になったと考えてもいいと思います。
あと、「
にき
」の形にも注意しましょう。過去の助動詞「き」の活用は「せ/○/き/し/しか/○」(公3)ですから、「〜にき」は下に続くものによって、ときには「
にし
」+体言とか、「
にしか
」+「ば」などとなったりします。
たとえば、「失せ
にし
とき」と「失せ
にしか
ば」の形も、もとの形は「にき」だと考えて「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形です。また完了の「ぬ」と過去の「き」がくっついて訳が「〜してしまった」となる点も、見分ける時の視点として覚えておくとよいでしょう。
まとめると、「〜にき/〜にけり/〜にけむ/〜にたり」の形の「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形。また「〜にき」の活用パターンは「〜にし」と「〜にしか」です。
公42Bを見て下さい。
三番めは形容動詞の連用形活用語尾の場合です
。
形容動詞のナリ活用
ナリ活用
未然形
連用形
終止形
連体形
已然形
命令形
なら
なり
なり
なる
なれ
なれ
○
に
○
○
○
○
*活用表にもあるように、形容動詞の連用形活用語尾は「に」となります。(「あはれ
に
」など)
① まず直単Cの形容動詞に載せられているような
代表的な頻出形容動詞は覚えておく
こと。(木山の直単C形容動詞1〜23まですべて目を通して覚えて下さい。)
② しかし、はじめて見るような形容動詞が問題に問われてくる場合もありますから、その場合はまず、
形容動詞は物の状態や性質を表す
という点を判断の根拠とします。また、形容動詞は「いと」(たいそう〜)といった
強めの副詞を上に自然に付けて読む
ことができます。
たとえば、「ほのか
なり
」の場合、ほのかな状態を表しており、かつ上に「
いと
ほのか
なり
」と自然に「いと」という強めの副詞を付けて読むことができますし、物の状態や性質を表していますから形容動詞と判断することができます。これが連用形になった場合、「ほのかなり」が「ほのか
に
」となって、その場合の「に」は形容動詞「ほのかなり」の連用形の活用語尾となります。
たとえば、「博士なり」のような名詞+断定の「なり」り場合には「
いと
博士なり」と読むことは不自然ですから、形容動詞とは認められません。また「ほのかなり」の語幹にあたる「ほのか」が名詞ではないかと疑った場合には、名詞はどんなものであれ文の主語になるというルールにあてはめて考えて下さい。形容動詞の語幹の「ほのか」の場合「ほのか(
は
)〜」とか「ほのか(
が
)〜」といった文の述部を作ることは不可能です。つまり
語幹が主語にならないということは名詞ではない
ということですから、形容動詞だと判断できます。
③ 最後に公45あはれなり/などの枠の左外側の*印を見て下さい。形容詞の語幹に「
〜げなり・がちなり・やかなり」
の接尾語がつくと全体で一語の形容動詞になります。たとえば、「をかし」は形容詞ですが、「げなり」がつきますと「をかしげなり」となって一語の形容動詞となります。その「をかしげなり」が連用形に活用すれば「をかしげ
に
」となりますから、この場合の「に」は形容動詞の連用形活用語尾と判断できます。
まとめれば、(1)直単Cの23語の形容動詞は覚えておくこと。(2)初見のものは先に書いた判別法で判断すること。そして(3)文末が「〜げに」の形は形容動詞の連用形活用語尾です。
公42Cを見て下さい。
四番めは、格助詞の「に」です。
格助詞の「に」は
動作・作用の目的や帰着点
を示します。帰着点とはその動作・作用がどこに向かって働いているかという、その方向を示すものです。
たとえば、「行く」という動作の帰着点が東京であれば「東京
に
行く」。「あげる」の帰着点が母さんであれば「母さん
に
あげる」といった感じになります。その際、格助詞の「に」は訳すときも「に」のままで訳せる、つまり
訳が「に」のまま
、というのが識別のコツです。
また、目的を示すという点では、たとえば「車をとり
に
やりて」とか「映画を見
に
行く」などのように、動詞の連用形に付く場合もありますから、体言接続でなくても格助詞の「に」になる可能性があります。
あと、同じ動詞を重ねて用いてその間に「に」をおく
強調の格助詞
という用法もあります。「海は荒れ
に
荒れて」などの場合、「に」は強調の格助詞です。(公42Cの*強調の格助詞「ただもうどんどん」)
また、本来場所の格助詞であったものが、その場所にいる人物を敬う表現に転化した用法に次のような例もあります。
【例】
「御前
に
も今日のことども問はせ給はば(御前
におかれましても
今日のことなどをお尋ねなさるならば)。」
これは「御前」という高貴な人物の前といった場所の概念に格助詞の「に」がついて「そこにいる人=高貴な人」自身を敬う表現と転化したものです。訳すときには「
〜におかれましても
」と訳します。電車の車内放送などで「ただ今テロ警戒中です。お客さまにおかれましても〜」といったフレーズを聞いたことがあると思いますが、この用法の「〜におすれましても」は事実上
主格
を表します。つまり「お客様におかれましても」という表現は「お客様が」というのと同じですから、先の例文でいえば「御前がこのことをお聞きになるならば」と訳す点に注意して下さい。
公42Dを見て下さい。
最後の五番めは、
文と文をつなぐ接続助詞の「に」
です。
本来独立した一文と一文をつないでいるのが接続助詞の「に」であるという見方が大切です。たとえば、
【例】
「行きて見る
に
、あとかたもなし」
この場合、「行って見る」と「あとかたもなかった」は、本来はともに独立した一文です。その独立した二つの文をつないで「行って見る
に
あとかたもなかった」といっているわけです。たとえば格助詞の場合、「三笠山
に
出でし月」のように「に」の上の「三笠山」は名詞であり、一文ではありません。それと対比的に考えると、接続助詞の文と文をつなぐというニュアンスがわかってくると思います。
また、
接続助詞の「に」の上は必ず
活用語の連体形
でなければなりません
。
たとえば、「〜へ行き
ける
に」みたいに必ず接続助詞の「に」の上は活用語の連体形になるということが成立の条件です。
また、接続助詞の「に」と判断する場合、理想的にはその前後がどのように接続しているのか、
単純接続
で「
〜すると
」と単純に結んでいるだけなのか、
順接
で因果関係を表して「
〜なので
」となるのか、または
逆接
で「
〜けれども
」「
〜のに
」となるのか、その単・順・逆の判断まで総合的に考えられればベストです。
以上、五つの「に」を左手の指を広げて次のように覚えてみることをおすすめします。
これを何回もくり返して覚えて下さい!
「に」の識別が出題されて試験場で一瞬頭が真っ白になったときは、落ち着いてこの左手の形を作ってみることです。それで親指から順に「にあり」系かな?または公7?マーク「にや/にか/にこそ」の形かな?それとも中指で形容動詞かな?じゃなかったら薬指か小指で格助詞か接続助詞か?格助詞は訳が「に」のままで、接続助詞は「連体形+に」の形で文と文をつないで、意味は単純接続か順接か逆接の三つだった、こんな調子で消去していけば、きっと正確に解けると思います。
「に」の識別が理解できたら、今度はさらに公式47の「にて」の識別も見ておいて下さい。基本的に「にて」の下に
あり
系列の動詞が出てきて「〜デアル・〜デイラッシャル」などと読めたら、「に」と「て」は切れて、
断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞の「て」
となります。公式47の例文にある「あてやかなる人
にて
おはす」などかこれにあたります。
また、下に
あり
の系列の動詞がこなくても、「〜にて、」の形で、そこを「〜デアッテ、」と読めるものはやはり「に」と「て」が切れて
断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞の「て」
となります。公式47の上の*印の例文「中納言
にて
、少将を兼ねたり」などがその形です。
ただし、形容動詞の連用形語尾の「に」+接続助詞の「て」も、たとえば「いとなへらか
にて
、」などと同じ形になりますから、よく注意して下さい。この場合には「なへらかに」が形容動詞の連用形であり、プラス接続助詞の「て」です。公式47Aの「にて」が一語の格助詞になる用法はあまり問われませんから、一読しておけば大丈夫だと思います。
【注意すべきまぎれやすい例】
*
中将たまたま殿上
に
侍るに、〜
一見すると「〜に
侍り
」で「に」の下にあり系動詞があるので、断定「なり」の連用形のようにも見えるが、「中将はたまたま殿上の間
である
/中将=殿上の間」となり意味不明。人や物がどこにいるのか、(またはあるのか)といった所在の意を表わす場合の「に」は、場所の格助詞となる。訳は「に」のままで「中将はたまたま殿上の間
に
おりました時に」となる。
*
そのことならば昔記し置ける
に
侍り。
これも上の説明と同じく、全体としてものの所在を表わしていると解釈できるので、格助詞の「に」。訳は「そのことならば昔記し置いた(ものの中)
に
ございます」。
*
さりとて人遣るべき
に
しあらねば、〜
一見すると「〜にき」の変則パターンの「〜にし」(完了「ぬ」の連用+過去「き」の連体)のようにも見えるが、前後の接続がまったく合わない。仮に「に」が完了「ぬ」連用であれば、直接動詞の連用形に付かなければならず、助動詞「べし」の連体形に付くのはおかしく、又「し」が過去「き」の連体形ならば、下には体言(名詞)がくるはずなのに、ここではラ変動詞「あり」に続いている点もおかしい。
この例文の場合、まず「し」は文脈からはずしても文意が通る強意の副助詞の「し」(公43B)と判断する。その上で「し」がないものとして続けて読めば「さりとて人遣るべきにあらねば」となって、「に」+あり系の形で、かつ「〜ではないので」と読めるので、「に」は断定の助動詞「なり」の連用形とわかる。
*
(誰かがそれを)外に持ちい
に
けるとおぼしくて、〜
一見すると「にけり」の形で、完了「ぬ」の連用形のようにも見えるが、仮に「に」を完了「ぬ」の連用形と見れば、すぐ上の「い」(又は「持ちい」)を、何かの動詞の連用形と解さなければならないが、「い」の一音で動詞の連用形を表わすような語句などまず思いつかない。
この例文の場合、意味は「(誰かがそれを)外に持って
行ってしまった
と思われて」と解釈できるから「いに」の「に」はナ変動詞「往(い)ぬ」の連用形の活用語尾と見ればうまく整合する。(公23ナ変「往(い)ぬ=行ってしまう」)。結局ナ変動詞は二語しかないのだから、注意すべきは「〜しにけり=死にけり」と「〜いにけり=往にけり」の2パターンであることがわかる。
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